J-POPレビュー(6)

 
2004/11/11(対話-65) ユーミン、世界、忠誠心

 今年もユーミン(松任谷由実)の新作アルバムが出たみたいだが、もう聴いたんだろう?
 もちろんさ。すぐに買って聴いたよ。
 で、どうだった?
 難しいね。なにが難しいかと言うと、まずは音楽なんだが、ここ何年かのユーミンのアルバムだったらそこで彼女がなにをやろうとしているのかということがすぐに分かったものだが、今回はそれがよく分からない。つまり、捉えどころがないような感じなんだよ。
 君みたいに年季の入ったユーミン・ファンがそういうことを言うとは意外だね。
 83年にユーミンが出したアルバム『REINCARNATION』もよく分からなかったものだが、その時の捉えどころのなさに似ているかもしれない。それ以降の80年代のユーミンの音楽はいまもってよく分からない。しかし去年の『FACES』や一昨年の『WINGS OF WINTER...』なんかはそれなりに理解できたわけだから、これは俺の問題と言うよりユーミンの方の問題なのかもしれない。
 ユーミンの方の問題というと?
 なんとなくだが、今回のアルバムは松任谷正隆の方に主導権があるような気がするんだよ。83年頃から90年代始め頃にかけてのユーミンの音楽もそうだったと言っていいんじゃないのかな? つまり松任谷正隆がユーミンの音楽に"仕える"場合は最高の仕事をするんだが、そうでなくて松任谷正隆が主導権を取った場合はなにか違うものが生まれるような気がするんだよ。まあ、アーチストとプロデューサーとは言っても彼女たちは夫婦なんだから、本当の事情はそれほど単純なものではないのかもしれないけどね。
 今回は「J-POPレビュー」では取り上げないのか?
 ある程度理解しないと書けないよ。

 じゃあここで少しやっておこうか。ところで前作の『FACES』はセルフ・カバー・アルバムだったわけだから、今回の『VIVA! 6X7』は『WINGS OF WINTER...』に続くアルバムと言えるんだろう?
 そういう意識がユーミンにも松任谷正隆にもあったことは間違いない。つまり今回の『VIVA! 6X7』が、「21世紀のリラックス・ゾーン」あるいは「近未来の精神的リゾート」というコンセプトで創られた『WINGS OF WINTER...』が踏まえられていることは間違いない。しかしアルバム・ジャケットからはそういうものが感じられない。今回のジャケットは『SURF & SNOW VOL.1』(1980)に戻っているよ。つまり、『SURF & SNOW VOL.1』の続編として構想された『WINGS OF WINTER...』が"廃墟のリゾート"をテーマにしていたとすると、今回のはそれを"救済"するアルバムなのかもしれない。
 そういう意味でも今回のアルバムは『WINGS OF WINTER...』の"続編"と言えるんじゃないのか?
 たしかに。それはジャケットを見れば明らかだね。但し、裏ジャケやブックレットのなかのイラスト(水彩画?)のイメージはほとんど『昨夜お会いしましょう』(1981)だけどね。ユーミン自身がPR誌『EYES V.17』のなかで『VIVA! 6X7』の音楽について、「久しぶりに松任谷由実前期の後半ぐらい、『悲しいほどお天気』とか『パール・ピアス』、そのあたりのトーンかもしれない」と語っているからまず間違いないだろう。
 ということは今回のテーマは"回想"と言えるんじゃないか?
 まあね。しかし人間は回想する動物であるとも言えるからね。
 回想であるとしてもその意味や意図がよく分からないということか。つまり、AKの「山ノ内のマリア」に見られるような「世界に対する忠誠心」(デーナ・リチャード・ヴィラ『政治・哲学・恐怖ーハンナ・アレントの思想』法政大学出版局P.206)が感じられないということかな?

 デーナ・R・ヴィラやハンナ・アーレントの言うレッシングにおける「世界に対する忠誠心」なるものがAKの「山ノ内のマリア」に見られるかどうかはまったく別問題だよ。しかしユーミンの『OLIVE』(1979)や『時のないホテル』(1980)が一種の世界を担っていたことは間違いないね。
 だったらその回想には意味があるわけじゃないか。
 どうかな? しかし考えてみたらセルフ・カバーの前作『FACES』も回想には違いないよね。だから『WINGS OF WINTER...』を含めて回想3部作と言えるのかもしれないが、ユーミンも松任谷正隆も『OLIVE』や『時のないホテル』が担っていた世界というものを理解していないかもしれない。
 そういうことはあるかもしれないが、自分たちが創った音楽について彼らが君よりも理解していないなんてことは考えられないよ。
 そうだろうね。そう言えば、今回のアルバムのI「Invisible Strings」は『時のないホテル』に入っている「コンパートメント」にそっくりだよ。
 え、ホントか? あのチョー暗い曲か? 俺はあの曲が好きだよ。
 もっと言えば、J(最後の曲)の「霧の中の影」が『時のないホテル』の最後の「水の影」を意識して書かれたことも間違いないね。タイトルからしても明らかじゃないか。
 なるほどね。しかしなんでユーミンは自分のPR誌で『時のないホテル』のトーンと言わなかったんだろう? 暗い音楽だと思われたくなかったのかな?
 そういうことはありうる。なにしろ売らなきゃならないわけだから。
 とにかく問題は今回のアルバムがどういう「世界」を担っているか、だろう?
 その通りだ。回想に意味があるとすれば、それがどのような可能な「世界」へとつながっているのか、"忠誠心"や"責任"の感覚を喚起しうるような「世界」を提示しえているかどうか、ということだ。しかし、いまのところ今回のアルバムからはそういうものが見えて来ない。CDケース裏の暗い水彩画になにかが暗示されているらしいことは分かるんだが・・・。それから、海岸を遠景にして横じまのシャツを着た女の子を背中から描いたブックレット表3の絵にも意表をつかれたよ。既視感に襲われたよ。多摩美出身だからな、ユーミンは。そうは言っても実際に絵を描いたのはユーミン本人ではないけどね。

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